― メガヒットになるものと、ならないものの差って?
山下:恋するフォーチュンクッキー聞いたときはさすがに「これは!」って思いましたよね。
― どんな感じでした?
山下:恋するフォーチュンクッキーって何か懐かしい感じがする中で、若い人たちも口ずさめるような誰もが歌えるようでいて、じゃあそれを作ってみろって言われても、これは簡単には作れないだろうな~。難しいことをやっているわけじゃないけど、心に響くというか。それは、あの広がり方を見たときにね、いろんな街の人が踊ったりね、すごいなあって。
― それはもう、売れる前に分ったりするの?
山下:社長、デモを秋元さんに出すときにどうでした?
草野:これはすごいことになるぞ!みたいな?(笑)
竹内:いや、コレは決まるだろうなあと思いながらも、ただその時はシングル表題曲になることだけを祈ってました。受験の発表待つみたいな気持ちでね。
草野:デモ聞いた時に「これヤバいな!」って思ったよ。
山下:デモがね、ほんと、もうすごいんですよ。
草野:ちょっと、俺に話させて!(笑)デモがすごいっていうか、AKBさんにこの曲をぶつけてくるんだ!っていう、たぶんプロデューサーの秋元さんの選び方がすごいなって思って。
― やっぱり予定調和じゃなかった…。
草野:だと思います。いままで歌ってないタイプの曲で、かつ、ポップで、これをアイドルが歌ったらこれは楽しそうだ!と。
― ただのプロデューサーと一番違うところってそういうところですよね。
草野:やっぱりそこですかね~。
― ぶつけ方っていうのかな?
草野:そうきたかっていう。要するに、本当に今までの曲とは明らかに違って、 ちょっとレトロな感じの、けどハッピーで楽しそうな。
― さっき石丸さんが言ってたのと似てますよ。
石丸:そうきたか、っていうの秋元さんが狙っていたんでしょうね。
草野:そうですよね、ちょっとこの辺でワンクッション刺激を入れようか!みたいな(笑)
石丸:我々もかなりいいラインで、打ち返せたっていうことでしょうね。
― メロネストが上げるものに、必ず1個は、それが入ってるといいですね。ドはずししてないのに、そう来たか!って。
竹内:そう。作家さんの個性が出ているものを出していきたいですね。
石丸:狙っているものに、そんなに離れてはいけないけど、この方が面白いんじゃない?っていう何か相手が納得するようなものを作りつづければ、すごく特色のある事務所になっていきますよね。
― 広告のディレクションでも、ガチでこう行くとクライアントとぶつかるなってことがあるんですよ。そうすると、たぶんそのラインでは解決しなくて、右斜め45度もうちょっと高目狙いみたいな感じでね。そうすると、ぶつかり合いが解消された上に、スゴクいいものができたりして…。
― メロネストへの道にもあるけど、そこに無い何かを創るのって…。
山下:つまりプロデューサーとして、ディレクターとしてあなたはどう演出していきますかってことですよね?
― 表現論そのものかも…。
竹内:楽曲の場合だと、例えば映像が見えるとか。映像が見えるものはやっぱりすぐに決まるし。それはやっぱり詞が入ってて詞の言葉、アレンジ、曲のイメージ、これが全部ぴたっとフォーカスが決まって一つの映像が見えたらすぐその場で決まっちゃうくらいのね。
― 詞は楽曲を呼ぶ、みたいなところもあるんでしょう?
竹内:ありますね、作詞家と作曲家が良く言うのが、良い曲はすぐ歌詞がすぐ書ける、逆もあって、良い歌詞はそれを見た瞬間に曲が書けるみたいな。っていうことは良く聞きますよ。だから、その時点でもう同じ絵を見てるんじゃないかなっていう気がするんです。出されたものに対して同じ絵が見えたら、その曲はいい曲になるなっていうのは感じますね。
― 例えば、歌詞のワードやフレーズで、これどっかで見たっていうのが入っているとモチベーション下がります?これ良くある言葉回しじゃん、みたいな。
竹内:それは持って行き方だったり、ブレスの位置だったり、抑揚の付け方だったりバリエーションはいくらでもあるので。まあたしかにね、使いまわされた歌詞聞くと、よくあるよねって思いますけど、逆にそこを利用するとか、そこをどう上げるかってのも醍醐味ですから…。
― 楽曲って単体でたとえばiPhoneで聴く時もあるけど、仕事だとはじめから映像がある場合もあるでしょ。すでに絵はあるけど、そこにない絵も浮かぶって返し方もありですか?
山下:どちらかというと絵を引き立たせるための音楽だったり…。
草野:いやあ、難しいなあ。
山下:自分がやっているポジションは、広告代理店だと、絵(つまり商品など)を引き立たせるための音楽をくれってなるので、それ以外のことを連想させるっていうのは…その絵が引き立つための音楽が欲しいんですっていうコトが多くて…。
― 逆に、たとえば作詞家さんから詞をもらって、これは来たね~っていうのはあります?すぐ曲が浮かんだとか。
竹内:作家さんが作ったもので?それはありますね。
― それはすぐにわかるもの?
竹内:もう、それは直観的。ビビビッと(体震)。
草野:自分はどっちかっていうと作るサイドだからなあ。
― 石丸さんはどうですか?
石丸:ちょっと論点が違うかもしれないけど、僕なんかは前の会社では選曲の仕事だったから、こういうカフェでも流す音楽によってガラリと色が変わってくるとか…。
― 色彩が変わってくる?
石丸:映像に音楽を付けるというよりも五感ですよね。五感の中の音楽のポジションはすごく大事で、唯一時間の概念を持っているのが音なので。僕の場合、空間をデザインする仕事なので音でそこにストーリーを作って、時間的概念を作ってあげてっていうのが第一。という話はあまり面白くない?
山下:そんなことないですよ(笑)
竹内:演出の基本ですよね。
石丸:自分が作っていくときの基本かなあ。
― さっき社長が言ってたのは、そこに無いものを表現しようってことでしょ。文字を見て楽曲が浮かんだり、歌詞を見て楽曲が浮かんだり、楽曲を聴いて歌詞が出来たり、それを聴いたときに映像が浮かぶような楽曲を作るってことですよね。
竹内:そうですね。
― そこに無いわけじゃないですか、表現の手段としては。歌詞っていうのは文字の羅列でしょ。それが楽曲を呼ぶというのは、そこにはないものを呼び込む力があると…。
竹内:無い絵を見せるっていうことですかね。
― 甘い香りがしたり、色彩が加わったり…。
竹内:雪景色が見えたり、雨が見えたりしますね。詞がなくても曲とアレンジだけでもね。
― みんながそういう風になるといいですね、みんなが誰かのクリエイティブに何か1つ、プレゼンすると。
竹内:そうですね。劇伴作る人たちは画ができていないところで想像で作ることもよくあるので、歌もの作る人でも、みんな頭の中に絵を描きながら作っているんだと思うし。それがクライアントが望んでいるものだったらサイコーです!
― よく、広告の世界で、制限があるから思い通りのものができないとか聞くんですが、誰かのために音楽を作ること自体、それと似てるじゃないですか。その制限と、クリエイティブの自由というか、そのせめぎ合いって…?
草野:制限がある中でも、自分は自分を結構出している方ですね。向こうのリクエストには応えつつ、ここはいかさせていただきまーす!みたいな(笑)それで、文句は言われないんで、自由というか、やりたいところはやらせてもらって、合せるところは合わせて一応結果を出してる気がするんですけどね。自分の個性ってギターなんですけど、結構暴れん坊なギターを入れさせてもらって、もう先方も草野はそういう奴とわかってくれてるから、そういう方面で、楽曲やアレンジ発注が来ますし。
― ある意味、制限ってこっちからは出ちゃだめよっていう接線ですよね。僕は接線がなくてクリエイティブって楽しいの?って思いますね。そもそも、制限があるんじゃないの?って。広告だとポスターのサイズとかも制限だし、何秒とかの尺も雑誌の見開き広告も制限だし、無制限に何でも好きにしていいって言われたら、逆にできないんじゃない?って思うんですよね。
山下:制限なしにやってみてよって言われて、出してみたら、いや、違うんだよね!ってパターンは多いように思いますね。
― 無制限で、まったく自由に作ってみたら、きっとどこかにあるようなものに近くなるような気がしますけどね。
草野:難しいですね、完全にオリジナルっていうのは。でも、良いメロディーとかって、どうしても、どっかしら、~っぽいねとか言われるものが多いと思うんですけど。それでもいいとは思いますけどね。その人がいろいろなものに影響を受けて、ああいう部分とこういう部分が混ざってこういう風にできたのねって。
― どうですか、石丸さんの場合は?
石丸:そうですね。まず、最終的に出してどうですか?というのはやらない。その前にある程度、仕事を決めちゃっているので、だから作家を1本に絞って出来上がったものにダメだしっていうのは基本ないですね。その前に大体終えちゃっているので。まあ、商業施設ものはね、ちょっと違うと思うんだけど。
山下:それが、本来我々がやっていかなきゃいけない仕事だと思うんですけど。
― 僕は作り手が制限とかボーダーとかを楽しんじゃうのが、すごく大事なのかなって思うんですよ。本当に何もなくて野原みたいなところで好きに作れって言われて、本当にできるのか?って。
竹内:できないと思います。プロの作家とかプロの絵描きさんとか仕事で続いている人たちっていうのは、制限があるけどその中で自分の自由なことをやるっていうのが仕事だと思うんですよ。制限がなくて、それを越えちゃうとその人の人生というか個性というか、岡本太郎が太陽の塔を作るみたいな、アーティスティックなところに行っちゃうんじゃないかと思うんですよね。結果的に仕事になるのかもしれないですけど、ああいう発想っていうのはああいう人じゃないとできないですよね。自分の世界しかできない、っていう人じゃないと…
― 仕事だから、何らかの軸がありますよね。コンセプトがあって、オリエンシートとかも配られちゃって、だからこそ逆に、軸というか境界線を忘れさせちゃうみたいなこともできますよね。
山下:全然違う境界線を引き直しちゃうっていうことですかね。それはディレクターの仕事だと思うんですよね。あなたの引いた境界線通りにやるとこうなっちゃうから、こうしませんか?みたいな。
― あなたの線も含んでますよってね。
山下:全否定じゃ話にならないからね。あなたの言うとおりにするとこうなっちゃうから、こうするとこんなふうになるんですよって…。自分は広告の人と結構やるんですけど。向こうは音楽に精通しているわけでもないから。例えばあそこでかかってるやつみたいに、って言われたとしたら、同じことヤメましょうよって言うかな。
― そうすると、ディレクターとかプロデューサーの仕事って…。
山下:作家さんに発注するときに、クライアントに言われたまんまお願いして、そのまんま出したら、ダサいっすよ!ってなったらもう、自分の責任だから。また作り直しさせたら、山下さん!もっとちゃんとクライアントの意向を聞いてきてくださいってなっちゃうから…。
― 音楽の場合、たとえば「明るい」って言っても難しいですよね、いろいろな表現があるので。プロデューサーさんとかにもよって違うだろうし。
草野:そうですね、人によって「明るさ」はまちまちですからね。でも、たぶんそれも何回か話をしていけば、この人はこういう人だってわかっていくのでね。結構多いですよ、会話の中から拾っていくのは。自分が思ってたのじゃなくて、こっち側の明るさなんだ~って。メロネストもこれから作家に対してそうじゃなくちゃいけなくて、受け身じゃなくて来たコンペに対して、こっちがアイディアを出すような気持ちで、こんなのもあるんですよ~って出していかないとって思います。そのアーティストの様子を見つつ、従来の方向性も見つつ、それを聞いて作家が勉強して、こっちから企画提案していかないと…。いや、それじゃちょっと外し過ぎなんだよね、とか。相手のディレクターだったりプロデューサーとも、もっと対話していった方が良いのかなって思うんですよね。
― 受け身で仕事しても、対話で仕事しても、結局は人と人のコミュニケーションですからね。
草野:1発だけ投げて、ちがうんだな~で終わりじゃ発展性がないじゃないですか。だから、くらいついて行って何が欲しいのか相手から聞き出すくらいじゃないと。
山下:ちょっと飲みにいきましょうって言えるくらいのじゃないとね(笑)
草野:もちろんそうだし、そこに向けたこっち側の熱意。こんだけ作家が曲作ってきたら、それがウザいと思われたら仕方ないけど、そういうのを恐れずに、それくらいの熱意をもって向かっていかないとね。
山下:オレは、この仕事、絶対したいんだっていうね…。
竹内:じゃあ、ここらで飲みにいきましょう!
一同:そういうオチですか!!(笑)
2016.07.22 撮影協力・NewYorkCafe(恵比寿)
対談進行・吉田益美
(株)ヒットマンコーポレーション代表・ブランディングディレクター、
桜美林大学メディアジャーナリズム「広告の世界」特別講座講師、
埼玉県朝霞市シティブランディング・ディレクター
ブランド広告、ブランディング戦略立案、ブランディング教育等に数々の実績を持つ。